現代企業の部下の指導の難しさ

閑話

【はじめに】

近年、会社内で若手の指導が難しくなっているという話をあちらこちらで耳にします。私も現役時代、実際に部下を持っていた身としてそれを実感していました。
要因は様々にあるのですが、私が特に難しく感じたのは、若者の価値観の変化やハラスメント、コンプライアンスの厳格化など、さまざまな社会的背景の中で、従来の指導方法では通用しなくなっていることです。
最近そのような話をしていて、私自身がどのように考えながら指導していたかを思い返す機会があったので、ここでお話ししたいと思います。

【部下育成の現状と課題】

今日の企業は「人は財産」と掲げながらも、実際の現場では効率化のための人員削減などによる人手不足や多忙な業務のため、部下の教育や指導のために向き合う時間が十分に確保できず、直接的な教育が難しい状況です。上司としては、部下の問題を迅速に解決しつつも、成長につながる対話やフォローアップを行う必要があり、その難しさを日々痛感していました。

【感情のコントロールと指導の違い:怒ると叱る】

「怒る」と「叱る」の違い

現代の部下の育成・指導において、重要なのは「怒る」と、「叱る」という行為の違いの本質を理解することにであると思います。旧来型の、上司からの一方通行的な指導の仕方は「怒る」に近いものがあり、現代において必要なのは「叱る」型の指導なのだと思います。

ここで、指導における「怒る」と「叱る」の違いについて触れておきたいと思います。
まず「怒る」とは、感情のままに声を荒げる行動であり、ストレスやフラストレーションをそのまま発散するに過ぎません。感情的な怒りは、瞬間的なものではあるものの、部下に何が悪かったのかが伝わりにくく、恐怖や不信感を与える結果となることが多いのです。たとえば、子育ての現場でも、親が感情的になって声を荒げる光景は散見されますが、その場は収まるものの、後でしっかりとした対話がなければ、子どもにとっては何が正しいのかが分からず、結果的に改善につながらない場合が多いのです。
一方、「叱る」という行為は、まず自分の感情をしっかり整理し、冷静な状態で部下に対して具体的なフィードバックを行うプロセスです。

私自身、問題が発生した際は感情が高ぶることもありましたが、必ず一度冷静になるために内省を行い、その上で部下と対話を重ねるよう努めてきました。具体的には、まずは冷静に状況を整理し、問題の背景や原因を共に考え、再発防止のための対策を部下自身に考えさせる場を設けました。もちろん、部下の考えた対策については再び一緒に話をして意見を交わします。たとえば、最初は厳しい言葉で状況の深刻さを伝えることもあったが、その後には具体的な原因分析と改善策の検討を重ね、部下自身に答えを導かせるよう努めた。このようなアプローチは、単なる感情の発散ではなく、部下の成長を促す建設的なフィードバックとなります。

「叱る」ためにはどうするか

しかし、現代の現場では「怒る」と「叱る」の使い分けがきちんとできていない人が多く感じられます。その背景には、感情を抑えるためにただ「我慢する」だけで、その後に心の中で一度整理をし、「許す」プロセスを踏むという違いを理解できていない場合があると考えています。

「我慢する」という行為は、感情を無理に押さえ込むことで、一時的には平穏を保つかもしれませんが、内に溜め込んだストレスが後に悪影響を及ぼす危険性があります。一方で、一度自分の中で問題を消化し、相手の過ちを「許す」ことで、冷静さと客観性を取り戻し、建設的な対話へと繋げることが可能になります。こうした心の整理があってこそ、部下に対して「何が問題だったのか」「どうすれば改善できるのか」を共に考えることができ、信頼関係の構築に大いに寄与するのです。

私自身が若手の頃、上司から指導を受けた際にその内容に納得ができず、なぜそのようにしたのかを説明して理解を求めようとしました。しかし、上司は具体的な返答もな、く私の話を一蹴して自分の言いたいことだけを一方的に話し続けました。その事は私に、その上司への不信感を抱かせるだけでした。

【温かい支援と対話の重要性】

現代の若手社員は、単に業務をこなすだけでなく、安心して意見を述べられる環境や温かい支援を求める傾向があります。上司としては、部下に対して一方的な指導だけでなく、親身になってサポートする姿勢が求められます。たとえば、部下に対して「こうすればよかった」という一方的な指摘だけではなく、部下自身に考えさせ、「どのように改善できるか」を共に議論する対話の時間を設けることが大切です。そうすることで、部下は自らの失敗を前向きに捉え、次に活かす力を養うことができます。

また、部下育成の現場では、上司自身が日々のストレスや感情を適切に管理し、冷静さを保つことが不可欠です。感情のコントロールと対話のスキルは、信頼関係を築くための基本であり、結果として部下が安心して意見を述べ、改善策を模索できる環境作りにつながります。

【組織全体での取り組み】

個々の上司の努力だけでなく、組織全体で部下育成の環境を整えることが必要だと思います。たとえば、現場でのきめ細やかなフォローアップを実現するためには、人員削減ばかりを考えず、教育のスペシャリストを現場に配置するなど体制の強化が必要なのでは無いかと思います。

今朝のニュースでは、給料が上がらないことにより離職者が増え、倒産に至るケースが報じられていました。しかし、問題は給料だけに留まらないと思います。適切な指導が行われず、重要な仕事を任せられる人材が育たないことや、教育・指導の不備が原因で離職者が続出する将来も、決して想定外ではないと感じています。
経営層が現場の実情を正確に把握し、必要なリソースを投入することで、「人は財産」という理念が実際の現場で生かされ、持続可能な成長につながると信じています。

【結びに】

現代の部下育成は、ハラスメントやコンプライアンスの厳格化、そして若手社員特有の価値観の変化といった複雑な要素が絡み合い、指導者にとって非常に難しい課題となっています。しかし、現役時代に経験した数々の失敗や成功を通じて、私が学んだ最も大きな教訓は、相手をよく理解し、信頼関係を築いた上で冷静かつ建設的な対話を重ねることの重要性です。部下にただ厳しく指示するのではなく、彼らが自ら考え行動できる環境を整えることが、企業の持続的な成長につながるとのでしょう。昔からみれば過保護に感じられますが、子供の面倒をみるくらいの温かい視点とケアが必要になっていると感じます。

現代の部下育成は決して簡単なものではありません。しかし、私自身の経験から、現場での実践と対話を通じて築かれる信頼こそが、未来を担う人材の成長を促す原動力であると信じています。

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