自動化が進む飲食業界
先日、ニュース番組の特集でレストランの調理を自動で行う機械が紹介されていました。ボタン一つでメニューを選ぶと、あらかじめセットされた具材から必要なものを選び、調理器へ運び、調理から盛り付けまでをこなすというものです。調理器では、選択されたメニューに応じて具材の投入順や加熱時間がプログラムされ、それに沿って調理が行われます。
盛り付けは、加熱したものを大きな器に投入するだけなので、繊細な盛り付けまでは自動化されていませんでしたが、サラリーマンのランチメニューなどには十分な仕上がりでした。昨今の深刻な人手不足を補うために開発されたとのことです。
製造業の現場でも自動化は進むのか
私は在職中、加工食品工場の製造現場をたびたび訪れていました。製造工程は何段階にも分かれており、各工程ごとに作業用の機械が配置され、ボタンを押すことで決められた時間やパターンで作業が進められます。しかし、機械が作業をしてくれるとはいえ、準備の設定には手間がかかり、製造中も微調整が必要な場面が多くあります。製品の形状や食感、品質には作業者の経験と力量が大きく影響していることを実感してきました。
テレビ番組などで、「職人」と呼ばれる人達が「季節や気温、湿度の違いによって原料の配合や加工時間を調整する」と語る場面をよく目にします。工場の製造工程を担当する従業員の方の中にも職人と呼んでも差し支えがないくらいの知識や技術を持った方がいます。大量生産の工場においても作業者の経験が品質を左右することは少なくありません。これらのノウハウは会社の財産であり、先輩から後輩へと受け継がれる貴重な技術です。
人手不足がもたらす影響
しかし近年、人材不足が深刻化しており、熟練の技術を持った作業者がどんどん減少しています。人材不足が深刻化している要因の一つに、労働市場の流動化があります。かつては定年まで同じ会社に勤めることが一般的でしたが、現代では転職を重ねてキャリアを築く人が増えています。そのため、職場ごとに積み上げられたノウハウが長期的に維持されにくくなり、技術の継承が難しくなっています。こうした状況に対応するため、多くの企業がマニュアルの充実や動画による教育コンテンツの作成に力を入れていますが、現場での実践を通じてしか得られない知識や勘どころを完全に伝えるのは容易ではありません。
工場でもオートメーション化が進み、誰が作業しても同じ品質が得られるような仕組みが整えられていますが、まだ完全とは言えません。特に、人の経験が重要な工程ほど自動化は難しく、これからの人手不足を考えると早急な対策が必要です。長年積み上げたノウハウをデジタルで管理・再現できる仕組みの導入が求められていると感じます。
未来の工場に求められるもの
実際、ある工場の作業者と話をした際に、「最近、AIが話題になっていますよね。ああいった技術が製造現場に取り入れられれば、作りたい製品に合わせて工程を自動調整し、品質確認と微調整も自動で行えるかもしれませんね」と言った話を振ってみたことがありました。
従来の作業が機械に置き換えられる不安もあるため、反発を受けるかとも思いましたが、その作業者の方も大いに頷いていました。現場ではすでに人手不足が深刻な状況であり、効率化や自動化は避けられない流れになっているのではないでしょうか。
AIやIoTの技術を活用することで、これまで経験豊富な作業者が担っていた品質管理や調整作業を、データ解析を通じて自動化する試みは、実際に進められています。実際の導入事例もネットなどでも紹介されています。製品の形状確認等の検査や、作業機械の保守整備といった部分では比較的取り入れやすいのかなという印象を持ちました。しかしながら、加工段階で品質安定のためにということになると、なかなか一筋縄ではいかないのかなと感じます。検査の工程ならば、正しいものに対して一定以上の差異があるものを検出するという考え方はどんなものを作っても共通であると思いますが、加工の段階は作る製品により様々です。その中でも比較的対応しやすいものもあれば、アプローチの難しいものもあると思います。また、そこに熟練の技を落とし込むのも時間のかかる作業になるのではないでしょうか。
もちろん、こうした技術が既存の多くの設備の代替として実現したとして、導入するには投資が必要であり、すぐに実行するのは簡単では無いでしょう。しかし、こういった技術は生産性の向上といった面からも重要で有り、将来的にはこうした技術の導入が生き残りのための必須条件になっていくことはあり得ない話でもないかもしれません。
まとめ
どこも人手不足は深刻だよね、という話を改めて感じた一日でした。今後、現場の知恵や経験をどのように守り、技術と融合させていくのか。その行方に注目ですね。