最近、日本でもFIRE(経済的自立と早期退職)やアーリーリタイアという考え方が広まっています。多くの人が興味を持っていますが、十分なお金があってもFIREを望む人と望まない人がいるのはなぜでしょうか?その違いについて考えてみたいと思います。

FIRE・アーリーリタイアが広まる社会的背景と日本人の価値観
以前は日本社会では「定年まで働くのが当たり前」とされていましたが、なぜ最近はFIREが注目されるようになったのでしょうか?その背景を見てみましょう。
FIREが広まった社会的背景
(1) 終身雇用・年功序列の崩壊
昔の日本企業では、終身雇用と年功序列制度が基本で、長く働くことで安定した生活が保障されていました。しかし、バブル崩壊後の経済の低迷やグローバル化、企業の競争激化により、終身雇用制度は崩れ始めました。特に近年では、リストラや早期退職制度が進み、「長く勤めること=安定」とは言えなくなりました。この変化が、「会社に頼らず生きる手段」としてFIREという考え方を後押しする結果となっています。
(2) 投資環境の変化と金融リテラシーの向上
日本では長い間、「投資は危険で貯金こそ安全」という考え方が強くありました。しかし、低金利が続く中、預金だけではお金が増えないことがわかってきました。そこで、NISAやiDeCoなどの税制優遇制度が導入され、投資への関心が高まっています。特にインターネットを通じて簡単に情報を集められるようになり、若い世代を中心に「お金を働かせる」という考えが広まりつつあります。
(3) 働き方改革と価値観の多様化
政府が推進する「働き方改革」によって、長時間労働の是正や副業の解禁が進んでいます。この変化により、「一つの会社で定年まで勤める」という従来の考え方から、「自分に合った働き方を選ぶ」という意識へとシフトする人が増えています。特に若い世代の間では、「働くことだけが人生ではない」「自由な時間を増やしたい」という価値観が強まり、FIREを目指す人も出てきています。
日本人のFIRE・アーリーリタイアに対する見方
(1) FIREへの憧れと現実のギャップ
日本でもFIREという考え方は注目を集めていますが、実際にFIREを達成できるのは一部の人に限られています。特に、
- 高収入でなければ実現が難しい
- 投資リスクを取ることに抵抗がある
- FIRE後の生活設計に不安がある
といった理由から、関心はあっても実行に移せない人も多いのが実情です。
(2) 「働かないこと」への社会的偏見
日本では、仕事をすることが美徳とされる文化があります。そのため、「若くしてリタイアする=怠け者」という偏見を持たれることもあります。また、FIREを実現しても「何もしていないと世間体が悪い」と感じ、結果的に何かしらの仕事を続ける人も少なくありません。
(3) 家族・社会との関係
特に家庭を持っている人にとっては、「自分がFIREをしたい」と思っても、家族が賛成しなければ実現は難しいです。パートナーが安定した収入を求めていたり、子どもの教育費を考えると、FIREは現実的ではないと感じることもあります。
FIREを希望する人としない人、その理由を比較
それではFIREを希望する人としない人の間には、どのような違いがあるのでしょうか?
仕事に対する価値観の違い
FIREを希望する人
- 仕事を「収入を得る手段」と考え、必要最小限で済ませたい
- 会社に縛られる生活から解放され、自分の時間を自由に使いたい
- 仕事のストレスやプレッシャーから逃れたい
FIREを希望しない人
- 仕事そのものに生きがいを感じる
- 収入を得るだけでなく、社会貢献や自己成長を重視
- FIRE後の生活が想像できず、暇になってしまうことを不安に思う
- そもそもFIREに魅力を感じず、働くこと自体が充実した生活の一部と考えている
経済的な考え方とリスク許容度の違い
FIREを希望する人
- 生活費を削減し、貯蓄率を高めることを優先
- 投資を活用し、不労所得で生活する計画を立てる
- 「働き続けるリスク」より「投資で資産を増やすメリット」を重視
FIREを希望しない人
- 投資のリスクを嫌い、安定した収入を優先
- FIRE達成に必要な資産を築くのは難しいと考える
- 収入が途絶えることへの不安が強い
- FIREをしても、日々の充実感が得られないと考える
「FIREを希望しない人」の中にも違いはある
FIREを希望しない人の中には、大きく分けて以下の2つの層が存在します。
- 「FIREは現実的でないから目指さない」層
十分な資産を形成できない、投資リスクが怖い、FIRE後の生活に不安があるなど、実現の困難さから目指さない人々。 - 「そもそもFIREに魅力を感じない」層
働くこと自体に価値を感じており、FIREという選択肢に興味がない人々。
この2つの層の大きな違いは、FIREを「できない」と考えているか、「する必要がない」と考えているかにあります。「FIREは現実的でない」と考える人は、仮に十分な資産があればFIREを選択する可能性がありますが、「FIREに魅力を感じない」人は、資産があったとしても働くことを続けるでしょう。
その理由として、彼らは労働そのものに価値を見出しているため、仕事を単なる生計の手段ではなく、自己実現や社会的つながりの場と捉えていることが挙げられます。特に、現在の職業にやりがいを感じている場合、仕事を辞めることがむしろ生きがいの喪失につながる可能性があります。また、労働を通じて得られる社会的承認や、人との関わりを大切にしている場合もあるでしょう。さらに、自己成長の機会として仕事を続けることで、人生に充実感を持ち続けたいと考える人もいます。
また、必ずしも仕事に強い充実感や生きがいを求めているわけではなくても、働くことが肉体的・精神的に特に苦痛ではないため、経済的事情や安定性とのバランスを考えてFIREを選択しない人も存在します。彼らにとって、FIREを目指すことによる不確実性やリスクが、現在の生活の安定感と比較して魅力的に映らない場合があるのです。
また、日本社会に根付いた「働くこと」への価値観や社会的な役割意識が影響している可能性もあります。働くことが社会的な承認やアイデンティティの一部になっているため、たとえ経済的に余裕があっても仕事を続けることが「当たり前」と感じられるのです。
「FIREしたい!」 vs. 「働き続けたい!」— その分かれ道とは?
今回注目したいのは、後者の「FIREに魅力を感じない」人達です。彼らは、たとえFIREが可能であっても、仕事を続けることを選びます。彼らとFIREをしたい人達は一体何が違うのでしょうか。
FIREを希望する人とFIREに魅力を感じない人の違いは、単に経済的な条件だけではなく、心理的・社会的な要因にも影響されているといえます。
FIREを希望する人の特徴
FIREを目指す人には、以下のような傾向があります。
- 労働からの解放を強く望む
- 長時間労働や過酷な労働環境に疲れている
- ストレスの多い職場での経験がある
- 仕事を続けることで心身の健康が損なわれることへの恐れがある
- 自由な時間と精神的な余裕を求める
- 経済的に自立し、自分の好きなことに時間を使いたい
- 仕事に縛られず、自分のペースで生活したい
FIREを希望する人にとって、FIREとは単なる「働かない生活」ではなく、「自由を手に入れる手段」となっています。
FIREに魅力を感じない人の特徴
一方で、FIREに魅力を感じない人には以下のような特徴があります。
- 現在の仕事や労働環境に満足している
- 仕事を単なる収入源ではなく、生きがいや自己実現の場と捉えている
- 労働環境が比較的良好で、大きなストレスを感じていない
- 安定した収入や生活を重視する
- FIRE後の生活が未知のリスクを伴うと考える
- 現在の仕事を続けることが合理的な選択だと考えている
- 社会とのつながりを大切にする
- 仕事を通じて社会的な役割を果たしたい
- FIREによって得られる自由と引き換えに、社会的なつながりを失うことを心配している
両者の認識のギャップ
FIREを希望する人と、FIREに魅力を感じない人の間には価値観の違いがあり、認識のギャップが生まれることがあります。FIREを希望する人は、「働きたくないのではなく、自由に生きたい」と考えていますが、FIREに魅力を感じない人から見ると、「なぜ働くことをそんなに嫌がるのか」と映ることもあるかもしれません。
FIREを希望する人 | FIREに魅力を感じない人 | |
---|---|---|
仕事に対する考え方 | 労働の制約から解放されたい | 仕事に生きがいや安定を見出している |
ストレスの感じ方 | 労働環境が負担になっている | 仕事のストレスが少ない、または許容範囲内 |
FIREへの見方 | 自由を得るための手段 | 未知のリスクが多く、安定した生活を維持したい |
社会との関わり | 仕事以外で社会とのつながりを持ちたい | 仕事を通じて社会的役割を果たしたい |
仮に同じ労働環境にある人であっても、個々の感じ方や価値観は異なります。FIREの必要性は、個人の人生観や働き方に対する考え方によって変わるのです。
FIREの選択をどう考えるか
最終的に重要なのは、両者の考え方を相互に尊重し、FIREという選択肢を一律に良し悪しで判断するのではなく、それぞれの価値観に基づいた選択を尊重することです。FIREを選ぶ人も、働き続けることを選ぶ人も、どちらも自分にとっての最適な人生の形を追求しているに過ぎません。そのため、どちらの選択が正しいかではなく、自分自身にとって最適な生き方を見極めることが重要なのです。
私自身は、FIREを達成した経験から「FIREは手段であり、目的ではない」と強く感じています。確かに、経済的自立を得ることで得られる自由は魅力的です。しかし、FIRE後に充実した人生を送れるかどうかは、その人が何を求めているかによるでしょう。
大切なのは、自分の価値観を理解し、「本当に自分が求める生き方は何か?」を考えることです。